世相・事件・流行歌

7月 悠元寮が大久保地区に移転

 すでに大久保地区への移転を完了していた蒼玄寮に続いて、7月15日に悠元寮も完全に移転。大正時代から続いていた別所沼近く(今の付属中学校付近)での歴史に別れを告げる。鉄筋コンクリート4階建ての建物の美しさと立派さに、引っ越して来た乙女たちは滂沱の涙を流したと伝えられている。それまでは別々の場所にあった男子寮と女子寮が、ここにめでたく合体。3月に完成していた建物を横目で見ながら、乙女たちがやって来る日を一日千秋の思いで待ち望んでいた蒼玄寮生たちが、大きな期待や野望を胸に、大歓声で迎えたであろうことは想像に難くない。
 ただし、ここまでの道のりはけっして平坦ではなかった。当初150人の予定だった定員が80人に抑えられてしまったり、独自の食堂を作るという予定もチャラにされてしまったりといった「不当な抑圧」に、寮生は反発。当局と激しくやりあったという。
 でも、こういうことを言うと怒られるかもしれないが、もし独自の食堂ができていたら、寮食堂を媒介とした蒼玄寮と悠元寮の交流や「寮文化」も大きく変わっていたはずで、結果オーライだったという見方もできる。と同時に、蒼玄寮生としては、定員が減らされてしまったのは残念の一語である。いや、もちろん80人が醸し出す魅力の合計に不満があるわけではないが、「悠元寮生が150人……」という夢のような光景を想像すると、やっぱり「不当な抑圧」をした責任者を問い詰めたくなる気持ちにならざるを得ない。

夏 アオバアリガタハネカクシ大発生

アオバアリガタハネカクシ それまで沼地だった悠元寮を中心に、この夏、アオバアリガタハネカクシが大発生する。
「この虫がからだにとまったら、つぶさないようにそっと払いのけるようにすること。体液にはペデリンという毒があって、皮フに付いてから約2時間でかゆくなり、そのあと赤くはれ、水ぶくれができ、皮フ炎をおこす。ほうっておくと治るのに2週間以上かかることもある。まちがって目にはいると失明することもあるという」(どこかのサイトからの転載)という恐ろしい虫らしい。
 いたいけな柔肌から、それほどいたいけではない柔肌まで、すべての悠元寮生を無差別に攻撃した。行きがけの駄賃に、蒼玄寮生も攻撃した。この事件をきっかけに、寮周辺の環境整備が進められる。

電子レンジが導入される

 この頃、寮食堂に電子レンジが導入される。「冷えた麦飯も、これでおいしく食べられる」と寮生たちは狂喜乱舞。
 当時の電子レンジといえば、今とは比較にならない高級品。おそらく当時の値段で10万円前後はしたはずで、「よく、そんなに早く導入されたものだ」と感心しないではいられない。冷えた麦飯を何とかしたいという願いが、それだけ切実だったのかもしれない。
 その後、何代にもわたる電子レンジの歴史が始まるが、あまりの酷使に耐えかねてよく壊れ、次を買う予算がつくまで長い空白期間が続くこともあった。

衛藤さん映画に行きましょう事件

 とある極秘ルートから仕入れた情報によると、70年代前半のある日、おそれおおくももったいなくも、「映画に行きましょう」と衛藤さんをデートに誘った男子寮生がいるようだ。作品は「ウエストサイド物語」。場所は事務室前。
 20代だった衛藤さんは、いきなりの大胆な発言にドギマギしつつも、「わ、わたし、その映画もう観たから」と毅然とした態度で断ったらしい。
 おそらく、山ほどあるに違いない似たような逸話から、ひとつだけ紹介させてもらった。