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文:石原-82年

 悠元寮の春を彩る乙女の祭典ウソコン。

 寮祭がなくなろうと、寮食堂がなくなろうと、ウソコンの灯はしっかりと受け継がれています。

 2003年の春も、21人のいたいけな新1年生が、ウソコンという手荒くも愛情たっぷりの歓迎を受け、恐怖と感動の坩堝にたたき込まれました。最新のウソコンは、どのように行なわれたのか。極秘調査で判明した衝撃の内容を、見てきたかのようにご報告いたします。一部、想像を織り交ぜてありますが、大勢には影響ないと思うので気にしないでください。

入寮手続きはコスプレで!

コスプレ 純朴な新入寮生に課せられた最初の試練は、入寮手続き時の写真撮影。セーラー服をはじめ、魅惑的なコスプレ用衣装が各種用意されていて、上級生に「はい、じゃあ、この中から好きなのを選んで」と言われ、わけもわからないまま紹介用の写真を撮られます。 その写真は、プロフィールや自己紹介とともに元寮食堂の例のボードに貼られ、蒼玄寮生によって穴のあくほど熱心に見られることとなります。

 新歓行事が一段落する頃になると、すべての写真は何者かによって、いや確実に蒼玄寮生によって持ち去られてしまいました。だれの写真が一番先に持ち去れたたかやだれの写真が最後まであったかは、後々まで、微妙な遺恨を残すかと思われます。 ボードには、同様に趣向を凝らした新蒼玄寮生の自己紹介写真も貼られますが、持ち去られた写真はほとんどありませんでした。

 一部、はがされている写真もありましたが、「たぶん、自分ではがしたんじゃないか」というのが大方の見方でした。 でも、よく考えたら、この話はウソコンとは関係ないですね。セーラー服という語感の勢いに押されて、つい長く書いてしまいました。

お風呂で恐怖に震える全裸の乙女たち

カラン

蛇口は、すべてを見ていた……!? といっても、これは蒼玄寮のお風呂の蛇口なので、見ていたのはもっと別のものである

 「〇〇学部、○○学科、○○県出身、○○○○、ひと風呂浴びさせていただきます!」
 脱衣場で全裸になった新入寮生は、お風呂場に入るドアの前で、こう叫ばなければなりません。壁には、入浴のしきたりを書いた貼り紙。ずっと貼ってある雰囲気を出すために、わざわざ古い紙が使ってあります。 「声が小さいよ!」 「元気がないね、今年の一年は」 容赦なく浴びせられる上級生の罵声。何度か言い直しさせられて、やっと「入ってよし」の許可が与えられます。

 この段階で、多くの新入寮生が「たいへんなところに入ってしまった」と絶望的な気持ちになるとか。 衝撃は、これだけではありません。お風呂の中では、ひとりの全裸の乙女が、何人かの全裸の上級生にいじめられています。いじめられ役の2年生です。

 「生意気なんだよ」とお湯をかけられ、「態度でかいんじゃないの」と髪の毛を引っ張られて、おびえながらも「すいません……」と謝る全裸の乙女。

 しかし、彼女はひとりぼっちではありません。 「大丈夫」とやさしく声をかけ、肩を抱き寄せる別の上級生。さっきから強調しているのでいちいち断る必要はないと思いますが、当然全裸です。そんな彼女も、「余計なことするんじゃないよ!」と罵声を受けています。

 湯船の片隅で、身を寄せ合うふたり。 「おねえさま」 「○○ちゃん」 と言いながら、潤んだ目で見つめ合っています。 この光景を見れば、いくら純情な新入寮生でも、「レ、レズ……!?」という単語が頭をよぎらずにはいられません。この段階で、ほぼ全員の新入寮生が、荷物をまとめる決心を固め、ごくごく一部の新入寮生が「た、楽しそうかも……」と胸をときめかせるとか。

厳粛な対面式に酔っ払いが乱入

 本来なら、新生活への期待に胸がふくらむ上級生との対面式も、壮絶な修羅場と化します。それなりに厳粛に、そこそこ和やかに式が進んで、新入寮生の心に油断が芽生え始めた頃、「おやおやおや、今年の一年生はしけたツラしてるわね」などと言いながら、ひとりの酔っ払った上級生が乱入。

 あちこち乱暴に叩いたり、新入寮生にイチャモンをつけたりして、式の雰囲気を台無しにします。 式を進めようとする上級生も、目を吊り上げて応戦。
「ちょっと、出て行きなさいよ」「わたしの勝手でしょ」「なによー」と、いきなりつかみ合いのバトルが始まります。やがて酔っ払いはつまみ出されてしまいますが、そのあいだも、思いつく限りの罵詈雑言を上級生や新入生に浴びせかけます。

 やっと静かになって、「さあ、続きをやりましょう」と事も無げに式が再開されますが、そのこと自体に、さらにショックを受ける新入生たち。酔っ払い役の上級生は、後世に残る名演技でしたが、卓越した演技力があったからか、もともとのキャラクターが発揮されたからか、そのあたりはわかりません。

三ケ日教

 ウソコンの名物行事だった三ケ日講。残念ながら数年前に、宗教上の理由で廃止されてしまった (絵・石井〈有我〉由美子-85年)

話は変わりますが、ウソコンといえば、「三ケ日教」という謎の宗教が付きものでした。しかし、数年前から、あの企画は姿を消してしまっています。どうやら何年か前、新入寮生の中に、ある宗教の熱心な信者がいて、「ちょ、ちょっとマズイんじゃないの」という話になったとか。

 確かに、デリケートな問題だけに、いたしかたないのかもしれませんが、ちょっと残念ではあります。 同じく伝統的に行なわれてきた「寮食を食べる前の寮食歌斉唱」も、食堂がなくなった今となっては、やりようがありません。どうしようもないとはいえ、かなり残念ではあります。

ウソコン危機一髪!秘密は漏れていた……。

 秘密は漏れていた…… ウソコンは、その秘密が完全に守られていないと成り立ちません。新入寮生のうち、ひとりでも「こういうことやるらしいよ」とわかっていたら、上級生たちの懸命の準備も必死の演技も、すべて水の泡というか、けっこうマヌケなものになってしまいます。

 ところが、今年のウソコンは、絶体絶命のピンチに襲われます。ウソコンが実施されるより前に行なわれた生協の新歓イベントで、ある新蒼玄寮生が、ある新悠元寮生に、「悠元寮って、これこれこういう『ウソコン』という儀式をやるらしいよ」と暴露。どこから聞いてきたのかはわかりませんが、共通の話題で仲よくなりたいという目先の欲のために、取り返しのつかないことをしてしまったわけです。

 しかし、ウソコンの神様は、乙女たちを見捨てませんでした。その新悠元寮生は、ウソコンの秘密を聞かされながらも、「まさか、そんなことが」という疑いを持ちつづけ、さらに現実にウソコンの渦中に巻き込まれているうちに、あまりのリアリティと迫力に圧倒されて、結果的には、もっとも激しくショックを受けたうちのひとりになったとか。

 いろんな幸運が重なって、今回は事なきを得ましたが、これだけ情報が氾濫しまくる世の中になると、いつまた同じ危機が訪れないとも限りません。このレポートをはじめ、サイトの中のウソコン関連情報も、年が明けるころには削除する必要がありそうです。

 また、20年以上の歴史を持つことによる危機の度合いも、高まりつつあります。実際、かつてウソコンを経験した悠元寮OGの身内が、また悠元寮に入るという事態があったとか。そのOGは、ウソコンの秘密を身内に漏らず、衝撃を受けるのをむしろ楽しみにしていたので、大事には至りませんでした。しかし、今後も同じようなケースがあることは大いに考えられます。ウソコンという美しい伝統を守るため、OB・OGは、細心の注意を払っていきたいものです。

ラジオ体操でも、思わぬピンチが……。

 春の朝は、まだかなりの肌寒さを感じさせます。悠元寮の屋上に新入寮生たちが次々と上ってきました。マラソンとラジオ体操の時間です。今年も、向かい側の南棟の屋上には、歓迎の言葉を投げかけようと、心ある蒼玄寮生たちが鈴なりになっていました。ただ、ゴサガ踊りを披露しようという勇者は、今年はいなかったようです。

 開始予定時間の7時半になりました。し、しかし、いつまでたっても始まる気配がありません。どうやら、指導役の上級生が寝坊しているようです。新入寮生には適当な説明をして場をつなぎつつ、別の上級生が起こしにいって、ほどなく登場。まずは、屋上を5周するマラソンからです。指導役の上級生の手には、竹刀が握られています。

 「声が小さいよ!」「もっと足を高く上げて!」と、朝もやの空に響く厳しい声。寝坊ぐらいで恐縮しているようでは、指導役は務まりません。 お風呂での衝撃を経て、翌朝のラジオ体操の頃になると、比喩ではなく、ほとんどの新入寮生が「こんな寮、絶対にイヤだ」と固く心に誓い、こっそり荷物をまとめています。携帯電話が普及した昨今では、すぐに親に泣きつき、親も親で、「それはひどいわね。そんな寮、すぐに出なさい」と物分りのいい対応をするため、勘違いしたまま実際に退寮してしまいかねません。そのため、ショックの大きい子、いわゆる「やばい子」に対する細かいフォローが欠かせません。「いまはいえないけど、とにかく、今日の夜まで我慢して」と説得したり、あまりにやばそうだと、「絶対に秘密だけど」と早めに真相を告げてあげることもあるとか。

 かつては3日ぐらいにわたって行なわれたウソコンですが、そんな傾向が強まったこともあり、いまは一晩+翌日のあいだ秘密を保つのが限界。 何かとやりづらい状況の中、ウソコンの伝統を守りつづけていてくれる悠元寮生の乙女たちに、あらためて敬意と感謝の念を抱かずにはいられません。

不審者侵入による緊急寮生大会!

 そして…… ウソコンの締めくくりは、入寮手続き翌日の夜に行なわれる緊急寮生大会です。 「キャー!」 夜もとっぷりとふけた頃、突如、悠元寮に響き渡る乙女の悲鳴。あちこちの部屋から上級生たちが飛び出し、廊下を激しく行き来する足音が聞こえます。尋常ならざる気配に怯える新入寮生。ややあって、そんな彼女たちをさらに震え上がらせる放送が流れます。

 「寮内に、不審者が侵入した模様です」 本来なら締められているはずのカギが、なぜか開けっ放しになっていて、そこから怪しい男が入ってきたとのこと。さっきの悲鳴は、その男に出くわした寮生の必死の叫びだったようです。

 幸い、男はすでに逃走しましたが、カギをかけ忘れて不審者の侵入を許してしまったというのは、由々しき事態です。責任の所在を明らかにするため、全寮生を集会室に集めて、緊急寮生大会が開かれました。

 昨日からの一連の出来事で、新入寮生たちの精神状態は、そろそろ限界に達しようとしています。混乱と絶望でグチャグチャになった頭を抱えながら、重い足取りで集会室に集まる新入寮生たち。

 ところが、非常事態が起こっているにもかかわらず、上級生たちの顔つきは、あまり深刻そうではありません。いや、いままでとは明らかに違うすがすがしい表情をしています。 戸惑う新入寮生を前に、上級生が「ウソコンの真相」を話し始めます。最初は、なにを言っているのかわからなかった新入寮生も、次第に事態を把握。

 驚きとともに、深い安堵に包まれます。 「というわけです。けっして怖い寮ではないので、どうぞ安心してください。じゃあ、さっそく、親御さんにも、このことを教えてあげてください」 真相が明らかになった直後に「携帯電話タイム」が設けられるのは最近ならではですが、緊張が解けた乙女たちの涙の美しさは、今も昔も変わりません。

 このときの驚きと感動が、また来年の新歓でウソコンを実施する何よりの原動力。末永く伝えられていくことを祈らずにはいられません。実行委員のみなさま、お疲れさまでした。

 (完)